2010年12月20日月曜日

『SRサイタマノラッパー』レビュー

『SRサイタマノラッパー』。この作品は埼玉県深谷市(劇中ではフクヤ市となっている)を舞台に、ラッパーとしての成功を夢見る若者達を描いた映画である。

気の弱いメタボニートラッパーの主人公イックとおっぱいパブでバイトをするチビのトム、実家でブロッコリー作りを手伝うマイティーに病弱な竹田先輩。そんな冴えない男たちが紡ぐ物語は寂れた街に漂う土臭い空気と相まって現代日本の社会状況を見事に描き出している。

ファストフード店とファミレスとパチンコ屋が延々と続く、長く太い国道17号線。ネオンと車のライトが乾いた光で照らす路面は『バッファロー'66』でビリーとレイラが走ったアメリカはバッファローのそれと同様の哀愁を、しかしまた同時にわずかな希望を反射している。地方都市という酒樽で醸成される若者の精神は、万国共通の薫りを放つのだろうか。

主人公イックの(おそらくは)片思いの相手は東京に出てAV嬢になり、その後地元に戻り、偶然再会したイックをからかうだけからかって、またどこかへ去ってしまう。ビリーとレイラのようなハッピーエンドはこの映画には用意されていない。しかしラッパーとしての成功という夢が去ろうとするときイックは無様な姿でそれを追いかけるのである。その姿はダサくて、そして、カッコいい。ダサイタマにしてカッコイイタマである。

甘えた恋愛映画ともハリウッド型ガキ向け映画とも一線を画すホットな地方発ヒップホップ映画『SRサイタマノラッパー』。世界中のブラザーにリコメンドしたい傑作である。

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