2013年6月27日木曜日

真っ白な男

おい、酒だ。酒持ってこい。……聞こえねぇのか、酒だよ! もうこっちの瓶はカラなんだ。ぐずぐずすんな。え、なに? 飲み過ぎだと? やめろだと? 誰に向かって言ってんだこのばい菌オンナがっ! おまえは言われた通り動いてりゃいいんだよ! さっさと持ってこいオラァ!

ちくしょう。くそっ。おれだってなぁ、飲みたくて飲んでんじゃねぇんだ。あんときのことがよぉ、思い出すだけでこわくってよぉ、飲んでねぇと、こわくて死にそうな気持ちになるんだよ。素面じゃ、とても、一時間だっていられねぇ。ああ、またあの野郎の面がフラッシュバックしてきやがった。あのおぞましい、角の生えた、全身真っ黒の、汚らしい面がよ……。

別に、おれは、自分の行動を後悔しちゃいねぇよ。正しいことをしたと、いまだって思ってるんだ。正義のために戦った、なんていうと偉そうだが、しかし、そのつもりだったさ。いや、そうさ。あんときだって、おれはあの少年を守ろうとした。そのために、あのばい菌野郎に立ち向かったんだ。そこはまちがっちゃいねぇ。いや、誰にも、まちがってるなんて言わせるもんかい!

しかし、まさかあいつがあんな強いマシーンを持ってるなんて思わなかったんだ。想定外だぜ。ありゃあ、この世界のものじゃねぇ。あんなのは、ハリウッド映画の領分だ。あんな、ぎらついた金属でできたモビルスーツみたいなもんを持ち出してくるとはな。どうしろってんだよ。

けど、ボロボロになりながらも、おれはがんばったよ。死力を尽くして。おまえも見てただろ……ん? おい、もう酒がねぇぞ。もう一本持ってこい。なに、もうないだ? んなもん、酒屋に行きゃいくらでもあんだろ! 金か? 金ならほら、このマントをやるから、質にでもヤフオクにでも出してこいっ! どうせおれはもう飛ばねぇんだからよ。

えっと……そうだ。おまえも見てた通り、おれはからだ中から血を流しながらも戦ったよ。パンクズみてぇになりながらな。そして、あのばい菌野郎のメカに踏んづけられて、ぺしゃんこになる直前、あいつに助けられた。そう、アンパンマンの奴にな。おれは一命を取り留めた。けど、もう、こころの方が、だめだった……。

なぁ、ドキン。こんなになっちまったおれを哀れだと思うかい? なに、思わねぇだと? 嘘をつくなっ! おまえが慕ってたのは、こんな男だったか? パトロールもしねぇで、あのばい菌野郎に立ち向かうこともなく、昼間っから飲んだくれてる、この口の汚ねぇアル中がよぉ、哀れじゃねぇといえんのかっ!

おまえも、無理すんな。こんなアル中につきあうこたぁねぇんだよ。またあのばい菌野郎のとこへ帰ったらどうだ? どうせ、おれはもうだめなんだ。顔は新しいのを焼いてもらえても、こころは焼き直せない。おれのこころはもう折れちまってるんだ。またあの、身の毛もよだつような強力なメカに立ち向かう? 絶対に無理だね。

おい、ドキン。酒はどうした? なにボーッとしてやがんだ、ばい菌オンナがっ! つべこべ言わねぇで、おとなしくおれの言うことにしたがえっ! おまえもむかし、さんざん言ってたじゃねぇか。目をハート形にしてよぉ。おれは……おれはなぁ……腐っても、カビても、食パンマン様だぞっ!

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