2013年6月3日月曜日

コミュ障

コミュ障、ということばがございますな。

わざわざ書くまでもないことですが、コミュニケーション障害の略語です。就職活動の激化にともなって、ひろく使われるようになったことばです。よく、自分はコミュ障だから、などと自虐的に使われるのも目にします。

けれども、このことばが本来持っている意味にかんがみると、いささか安易に使われ過ぎてはいないでしょうか。コミュニケーション障害というのは、本来、そんなに生易しいものではないはずです。なのに、せいぜい性格がやや暗いとか社交性に欠けるくらいのひとが、コミュ障だと自称している気がするのです。

コミュニケーションに障害があるというのなら、せめてこのくらいでなきゃいけません。

「弊社を志望した理由を教えてください」
「はい。わたくしがある日、川原を散歩しておりますと、一匹の沢ガニが近づいてきまして、こう言うんです。おまえはまっすぐに歩いているが、そのコツを教えてくれないか、と。その沢ガニは、どうしても横にしか歩けないから、まっすぐ歩けるわたしにレクチャーを求めて来たのです。そこでわたしは……」
「あの、すみません。途中でさえぎって申し訳ないですが、その話が志望理由につながるのですか?」
「はい。そこでわたしは、ポケットに入っていた単三電池入りのおにぎりを取り出し、そのカニの手前三十センチのところに放りまして……」
「すみません。お話の中身がよくわからないのですが」
「単三電池です。アルカリの」
「それはあなたが持っていたおにぎりの話ですよね?」
「いえ。これは、わたしのひ孫から聞いた伝説です」
「……少し混乱してきたので、別の質問をしましょう。あなたの長所と短所を一つずつ教えてください」
「長所は髪の毛が一本もないところ、短所は……」
「失礼。見たところ、黒々とした髪が生えていますが?」
「これは髪ではありません。苔です」
「苔?」
「はい。ひとが分泌する油を栄養として育つ、特殊な苔です。それを、頭髪がわりにのせているんです。塩分がつよく、水にひたすとぬめりけを持ちますので、味噌汁なんかに入れると美味ですし、最近ではピザの具としても……」
「もう結構です。おひきとりください」
「すみません。オヒキ鳥はいま持っていません」
「いや、オヒキ鳥をくれと言ってるのではないんです。そんな鳥聞いたこともないですし」
「オヒキ鳥は焦げ茶色のまるい胴体をした鳥で、足は小枝のように細く、その肉は塩漬けにしておきますとかなり日持ちがする上にジューシーで……」
「オヒキ鳥の説明はいりません。もう帰ってください」
「土に還れと、こうおっしゃるので?」
「家に、です」
「どの家に帰れというのですか? あなたの家に、ですか?」

これなら、コミュ障ですと言っていいでしょう。

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