2013年6月8日土曜日

盗みの連鎖

むかしある村で、こんな事件があった。

ある日、鮮度を売りにしているある寿司屋の魚を、一匹の猫がくわえて持ち去ってしまった。水槽の中のまだ生きたままのやつを、狡猾な泥棒猫が盗んでしまったのだ。店の大将は包丁片手に泥棒猫を追いかけたが、残念ながら路地に逃げ込まれ、捕まえることができなかった。

猫は一安心してゆっくり路地裏の塀の上を歩き、まだぴちぴちと動いている魚をくわえながら、どこか落ち着いて食事に専念できるところはないかときょろきょろしていた。しかし次の瞬間、泥棒猫はある少女に捕まってしまった。少女は猫泥棒だったのだ。

猫泥棒に捕まった泥棒猫は、もがいたけれども逃げられなかった。少女はいやがる猫を小脇にかかえて、家まで持って帰ろうとした。やっと猫が飼えると思うと、わくわくしてスキップまでしてしまった。

けれども途中で、猫泥棒の少女はある男に誘拐されてしまった。男は身代金目当てで、ひとりで歩く無防備な少女をねらったのだ。男は、魚をくわえた泥棒猫を小脇にかかえた猫泥棒の少女を自宅へと連れ去った。

しかし、結局この誘拐計画は失敗してしまい、男はお縄になった。もちろん、男は法廷で裁かれ、その動機や方法など、あらゆることが取り調べられた。そして、その審理が進むなかで、事件の全貌が明らかになると、裁判長はこういった。

「この事件は、まるで盗みの連鎖反抗じゃないか。いかん。これはいかん」

そうして、この発言以後、被告の男にはボディーガードがつくことになった。連鎖がまだ終わっていないとしたら、この男がまた誰かから盗まれる(誘拐される)おそれがあると判断されたからだ。

一方、最初に泥棒猫に盗まれた魚には、よからぬ嫌疑がかけられた。魚は小型の水槽に入れられた上で法廷への出頭を命じられ、いまや、証言台の上で裁判長と向き合っていた。

「魚くん。きみはいったい、何を盗んだんだ? 正直に言いたまえ」

裁判長にこう詰問された魚は、たいそうギョッとしたという。

ええ、終わりです。

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