2013年8月3日土曜日

小谷野敦がおもしろいよ

小谷野敦というひとをご存知でしょうか。コヤノ・トン、またはコヤノ・アツシと読みます。このひとがまあ、おもしろいのなんの。

おそらく岡田斗司夫以上にマイナーで、知らないひとも多いと思うのですが、実に個性的でおもしろい文章を書くひとです。

本業は比較文学の研究者。主に日本の近現代の文学作品を研究しているひとのようです。が、それのみならず、非モテの立場から恋愛について語ったり、各種文学賞や特撮モノについて論じたり、あと、小説も書いてしまうというかなりマルチな物書きでもあります。

何がおもしろいかと言いますと、陰に陽に、文章に私怨が渦巻いているというところ。小谷野さんはもてないとか、東京大学の専任講師になれないとか、友だちが少ないとか、文学賞がとれないとか、そういうさまざまなコンプレックスを持っており、それに基づいて、いろんなひとを批判・罵倒するのです。

たとえば小谷野さんはカント研究者の中島義道が大きらいです。中島は、変人で世渡り下手のふりをした世渡り上手、だと評するのです。あるいは、宮台真司のこともきらいみたいですし、森見登美彦も、なにがおもしろいのかわからない、と言います。言い切ります。ほんとに容赦がない。

こういう、コンプレックスをあらわにしたり他人に毒づいたりするひとというのは、往々にしてキャラでやってたりするものですが、小谷野さんはおそらくちがって、まじっぽいんです。というか、まじです。ほんとに、心からもてないのを気に病んでいるし、東大の教授になれないことが悔しいのです。

それから、文章の書き方が独特。普通の知識人なら書かなかったり曖昧にぼかしたりするところを、ズバッと言い切ります。「いじめられっ子は、どうせ自殺するならいじめっ子を殺してからにしろ」みたいなことを、書いちゃいます。また、自分の興味あること、詳しいことをダーッとマシンガントークよろしく書き連ねる、というのもよくある。正直、明治から昭和初期のマイナーな文学者とか作品を出されてもチンプンカンプンですが、んなもんおかまいなし。

そういうひとですから、悪くいえば性格がわるいし、独りよがりだし、わかりにくいんですが、けれども、おもしろいのです。うまくまとまってる当たり障りのない本より、好き放題に、脱線しまくる小谷野さんの文章は、なかなか他ではお目にかかれないものです。

以下、読んだ本について。

・『文学研究という不幸』(ベスト新書、2010)
タイトル通り、日本の文学系研究について、否定的に考察した本。内容のほとんどは学者たちの学歴や受賞歴、活動についてだった気がします。だいぶ前に読んだのでうろ覚えですが。けど、おもしろかったのはたしか。文系院生などはかなりおもしろく読めるでしょう。

・『「昔はワルだった」と自慢するバカ』(ベスト新書、2011)
内容はタイトルとほぼ関係ありません。序盤は古今東西の文学作品におけるワル、または元ワルの扱いについて。後半は俗物とはどういう人間かという話。全然まとまりのない内容です。けど、それだけに小谷野節がうなっている。とりわけ中島義道批判にはかなりの紙幅が割かれており、読み応えがあります。小谷野さんは、中島がウィーン留学中に同時に七人の女性から求婚されたことに実に嫉妬し怒りを覚えているようです。

・『友達がいないということ』(ちくまプリマー新書、2011)
序盤からずっと、過去の文学作品における友情という話が続出します。普通、このタイトルだったら孤独な中高生に向けて書くと思うんですが、んなもん関係ねぇとばかりに、絶対中高生がついていけない話が続きます。「タイトルに惹かれて手に取った十代の子とか、これ読んでどう思うだろう?」と想像すると笑えてきます。びりびりに破くんじゃないか。ちなみに、帯に「ひとりでも生きていける」とありますが、ひとりで生きていく方法なんかほとんど書いてありません。

・『童貞放浪記』(2009、幻冬舎文庫)
ズバリなタイトルです。著者の二冊目の小説集。標題の作品が冒頭にあり、次が続編にあたる『黒髪の匂う女』、最後が『ミゼラブル・ハイスクール一九七八』です。私小説、ということなのですが、文章として上記のエッセイと差がなく、しかも脚色がほぼないみたいで、手記を読んでる感覚です。小説らしさがゼロに近い。内容は、標題の作品はタイトルから想像できる通りです。ただ、『ミゼラブル』は、どんな陰鬱な高校生活が綴られてるのかと思って読んでみれば、友達もいて、親との仲もよく、二年生からは優等生で、文学という好きなものもあって、という内容なので、「どこがミゼラブルやねん」と思わざるをえません。まあ、そこもまたおもしろいんですけど。


明日くらいには、小谷野作品のなかでおそらくもっとも売れた『もてない男』が届きます。これも楽しみに読んでみたいと思います。みなさまもぜひ、怨恨と不満に裏打ちされた、たしかなネガティブ文章を読んでみてはいかがでしょうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。